1カ月間のロングステイとは、観たり食べたりするための観光ではなく、同じ場所に1カ月以上滞在しながら休息を追求する旅のことだ。その土地の自然や地元の人々の生活風習に間近で接することができるのがロングステイの魅力だ。パンデミック以降、ロングステイは旅行という概念を越えて新たなライフスタイルとして定着しつつある。
トラベルライター青春ユリ夫婦の江原道寧越郡での1カ月ロングスティプロジェクト。その内容は『その夏、若い月』というタイトルで寧越郡と共同のエッセイとして出版された。
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ロングステイは長期間の時間を調整し、その間の滞在場所を確保しなければならない旅行スタイルで、時間的・経済的な条件、私たちが大切にしている日々の暮らしや価値観を代償とすることで成り立つものだ。これまでは比較的時間が自由な専門職のフリーランサーや芸能人のような特殊な職業、また退職後に地方への移住を考えている人々などが1カ月というロングステイを実行に移すことができたが、最近では一般のサラリーマンも増えつつある。仕事と休暇に対する人々の認識が変わり、パンデミック以降オンラインまたは在宅ワークが普遍化し、福祉と業務効率の向上のためにワーケーションを認める企業が増えているからだ。
ロングステイ人気を牽引した済州島
これまでも1カ月間のロングステイのような旅が全くなかったわけではないが、本格的に流行し始めたのは2010年代の初めだったと推定される。国内でロングステイの熱気をリードしたのは済州島だ。他の地域とは異なるエキゾチックな自然環境を楽しみたいという欲求、夏休みや冬休みを利用して、学業から受ける子供たちのストレスを解消してあげようという親の心理的報酬、済州島内でのゲストハウスの流行など、いろいろな要因が相まって人気が過熱した。さらに、常に人々の関心と注目を浴びている歌手のイ・ヒョリ(李孝利)が2013年に結婚と同時に、済州島に移住したことで、済州島とその暮らしぶりが注目された。済州島の家で行われたスモールウエディング、庭でペットの犬たちと戯れたり、畑の豆を収穫する姿、海でパドルボートを漕いだり、火山活動でできた小高い丘(オルム)を散策する様子など、のんびりとしたライフスタイルは一般人の好奇心を刺激するのに十分だった。
ロングステイはパンデミックを経てよりいっそう注目されている。この数年間コロナ禍によって抑制されてきた旅行需要が、旅先で1カ月にわたる長期間滞在するロングステイ、そして休暇を楽しみながら働くワーケーションなど新たな旅行トレンドを生み出している。
また旅行先も多様化している。1カ月のロングステイ過熱の初期には済州島の人気が高かったが、最近では江原道をはじめとして慶尚道や全羅道など、各地域に広がっている。このように一つの土地に長期滞在して暮らしてみるというスタイルが旅行トレンドとして牽引し、各地方自治体でも各種のプログラムを開発している。「南道で一カ月のロングステイ」、「慶尚南道を一カ月旅しよう」、「最近の金海、今こそ旅に」、「ノワ(木瓦)村、農村で暮らしてみよう」などが代表的だ。
コロナ禍以降、ワーケーションをする人々が増え、自治体がロングステイを積極的に支援するプロモーションが増えている。特に最近社会問題として浮上している農漁村の空き家を活用する法案が通過したことで、旅行客は多様で合理的な形態の宿舎を選ぶことができるようになった。
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ホテルに変身した村
村ホテルで1カ月間のロングステイをするケースも増えている。一つの建物にラウンジ、宿泊、ジム、食事などのすべてのサービスが整っている既存ホテルとは違い、村ホテルは村全体で一つのホテルの機能を果たしている。村の入口のカフェが案内デスクの役割をし、村のレストランがダイニングとなり、村の各種工房が体験イベントを担当する。つまり村全体がイベント会場のようなものだ。また村の人々との交流も楽しみの一つだ。
忠清南道公州市の村ステイ「チェミンチョン(済民川)」は、村ホテルの代表的なケースだ。チェミンチョンは村人を中心に有機的にホテルが構成されている。韓屋ステイ「鳳凰斎」から始まる村ホテルのフロントは家家商店が担当し、コミュニティとロビーの役割は「班竹洞247カフェ」が担っている。「鳳凰斎」以外にも「公州ハスク村」など伝統的な韓屋で宿泊でき、済民川を中心にして村のあちこちに食堂と体験イベントが存在している。
2018年から造成を始めた江原道旌善郡(チョンソングン)の「村ホテル18番街」は、韓国で最初に誕生した村ホテルだ。廃れた廃鉱村の古汗邑(コハヌッ)に村民たちが力を合わせて造成したものだ。空き家をリフォームした宿泊施設に滞在すれば、村の食堂、写真館、理髪店などで使える割引クーポンがもらえる。お年寄りが集う村のマウル会館はロビーの役割を果たしている。
寧越郡は詩人、書道家、トラベルライターなど各分野の有名人を招いて季節ごとに1カ月のロングステイプロジェクトを実施し、彼らの旅行記をエッセイ集として出版し、無料で配布した。読者は本を通じて自然と寧越郡に関心を持つようになった。
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農漁村の空き家を活用した空き家プロモーションも注目される。2021年統計庁の発表した全国の空き家件数は1,395,256戸に達する。これは未分譲の住宅、1年以内の未入居・未使用など一時的な空き家まで含めた数字だ。空き家が新しい社会問題として浮上してきたため、政府は農漁村の空き家を宿泊業として利用することを許可した。故郷の家を放置してきた人々には「空き家財テク」という可能性が開け、これを契機に多様な形態の宿泊施設が生まれるものと思われる。自治体もまた相次いで申請の受付を始めるなど、雰囲気も盛り上がっている。
ワーケーションがロングステイの可能性を広げる
仕事を兼ねてロングステイをする人々も増えている。いわゆるワーク(Work)とバケーション(Vacation)の合成語「ワーケーション(Workation)」だ。自宅やオフィスではなく好きなところで仕事と休暇を同時進行で行う新しい勤務体制を言う。この数年間、在宅勤務が拡大し、遠隔勤務が可能なデジタル基盤が造成されたことで増え始めた。企業としても休暇地での勤務を認め、業務と休息のバランスをとることで仕事の効率を高めようとしている。デジタル機器に慣れ親しみ「ワラベル(ワークライフバランス)」を重視するMZ世代(1981~2010年の間に生まれた世代)の登場は、ワーケーションの拡大にも多くの影響を与えている。
ワーケーションには、見知らぬ地域での業務を通じて仕事の効率の向上はもちろん再充電のチャンスも得られるという利点がある。これについて専門家たちは、ワーケーションはコロナ禍が生んだ一時的な現象ではなく、世界中で持続的に成長するだろうと分析している。
ワーケーションは「仕事と生活の調和」という新しい経験だ。詩人でありトラベル作家のチェ・ガプス(崔甲秀)氏は昨年末、江陵で1カ月間過ごした。
読者に毎日新しいニュースを伝えるメーリングサービス『日刊イスラ』を出している作家イ・スラさんが、寧越郡(ヨンウォルグン)と共同で出版した『イスラ生活集―寧越篇』のページ。作家は寧越で過ごした日々をヨガ、採集、ヴィーガンレシピなどの写真とともに短い文章で記録している。
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「普段暮らしている土地を離れて、まったく異なる環境と日常を経験するということは魅力的なことです。宿舎で日々新しい朝を迎え、普段のルーティンとは違う日常を体験することができました」。すべてが新鮮でインスピレーションを得ることもできました。身体は余裕に満ち、精神的にものんびりできて久しぶりに休息をとったと実感し、日々の暮らしの大切さを感じることができました。
ワーケーションの地域も済州島から江陵まで様々な地域に分散し拡大している。毎年、韓国社会のトレンドにスポットを当てて展望する「トレンドコリア2023」によれば、パンデミック以降、多様な世代の人々がワーケーションの場所として「田舎」を挙げていたという。特に田舎が注目されているのは、豊かな自然と田舎特有の魅力を楽しみながら都市生活とは違う余裕と平穏を感じることができるからだ。しかし、ワーケーションのすべてを肯定するわけではない。混乱する業務、仕事と休暇の境界があいまいになり、すべての業務には適用できないという短所もある。
1カ月間のロングステイの旅が普遍的なトラベルトレンドとして根付くには、ある程度の時間が必要だろう。しかし否定できないのは、朝起きて海辺をのんびり散歩し、村のカフェでゆったりとコーヒーを楽しむという「素朴ではあるが特別な体験」を求める人々が増えているという事実だ。
1カ月間のロングステイは新たなライフスタイルであり、旅の近未来だからだ。
チェ・ビョンイル 崔昺一、作家