長い間、韓国人の食卓で重要な位置を占めてきた海苔は、味もよく栄養価も高い食品だ。また、マグロと共に韓国の水産物輸出の1、2位を争う品目でもある。かつて「black paper」と呼んで、海苔を食べるのを躊躇していた西洋人の間でも、今では栄養豊かでカロリーも少ないことから、スナックとしての人気が高まっている。
海苔は国内で最も多く採取され、消費される海藻類だ。色が黒く光沢があり、焼いた時に青色に変化するものが上等品だ。紙の形に乾燥させた海苔は普通100枚を一つに束ねて販売されている。
海苔は韓国人が最も好きなご飯のおかずの一つだ。乾いた海苔にごま油やエゴマ油を塗ったあと塩をさっと振り弱火で焼いて、適当な大きさに切ってご飯を包んで食べる。最近ではオリーブ油も使われている。
おいしい物は誰でも知っているという言葉がある。海苔にピッタリ当てはまる話だ。アマノリ属(Porphyra)に属する海草は、およそ70種類に達するが、これらの海草が育つ地域では大方、これを食材として使用している。おいしいからだ。
ウェールズ、スコットランド、アイルランドの海辺でも岩にくっついた海苔をよく見かける。ラヴァーブレッド(laverbread、海苔パン) という料理は「ウェールズ人のキャビア」というニックネームがあるほど美味しい料理で、今もその地方の人々の朝食に欠かせないメニューとなっている。小さく切った岩海苔を長時間煮込んでペースト状にし、オートミールの粉をつけてベーコン脂で揚げて作る海苔パンは、一般的なパンとは全く形態が違う。たぶん海沿いに住む人々が主食とする食べ物なので、そのような名前がついたのだろう。
韓国では紙のように薄く延ばして乾燥させた海苔でご飯を包んで食べる。乾燥海苔を弱火でさっとあぶったり、ごま油やエゴマ油、またはオリーブ油を塗ってから塩をふって焼いたりもする。紙のように薄い海苔を口の中に入れ噛みしめると、カサッカサッという音が食欲を刺激する。その他にも焼き海苔を細かく砕き、炒めた野菜といっしょに麺の上にのせて具にしたり、ごま塩といっしょに握り飯の上にふりかけて食べたりもする。細かに砕いた海苔に調味料をまぶしてつくるキムジャバンも人気のある家庭料理だ。もち米の粉を水で溶いたものを塗って油で揚げて作るキムブカクはスナック菓子として食べる。生海苔や乾燥海苔に水を加え、煮て味をつけたあと、ごま油やエゴマ油を落として食べるキムクック(海苔汁)も同様に美味しい。
日本でも紙のように乾燥させた海苔をよく食べている。特に海苔は巻き寿司を作る重要な材料の一つだ。厚く焼いて四角に切った海苔をラーメンの上にのせて食べる場面もよく目にする。一方中国では、丸くて平たい座布団型に乾燥させた乾燥海苔の塊をはがして、汁物や炒め物の材料として使っている。
支柱式養殖は潮の干満の差が大きい沿岸地域のみ可能な方法だが、 浮きをつけて海苔網をかける浮遊式養殖は、遠海でもできることで海苔の生産量を大きく増加させた。
養殖した海苔は普通、11月末から翌年の2月まで何度も採取して乾燥させるが、最近はたいてい工場の乾燥機で乾燥させている。陽の光に当てて自然乾燥させた伝統方式は、人手が多くかかるのでだんだんと姿を消しつつある。
うま味の三重奏
韓国のユーモアに「汁料理に海苔の粉を入れたら反則」という言葉がある。それだけ海苔には料理の味を良くする力があるという意味だ。実は、海苔には美味しい理由がある。食べ物のうま味を出す代表的な成分は、M.S.Gとして知られている「グルタミン酸」、核酸系調味料といわれている「イノシン酸(IMR)」、「グアニル酸(GMR)」の三つだ。東洋ではうま味をだすために、主にネギと昆布を、西洋料理ではタマネギ、ニンジン、トマトを使うが、これらにはM.S.Gがたくさん含まれている。イノシン酸は牛肉、鶏肉、鶏ガラ、煮干などに豊富に含まれており、グアニル酸はしいたけ、ポルチーニ茸、アミガサタケのようなきのこ類に多い。
そして海苔にはグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸のすべてが入っている。これら三者が合わさることによって、作り出されるうま味の三重奏は足し算ではなく掛け算だ。イノシン酸一つを加えるだけでも、グルタミン酸濃度の1/60水準で十分うま味を感じることができる。それにグアニル酸まで加われば、味の相乗効果はまさに爆発的だ。だから海苔はまさにうま味成分の結晶体といえる。それだけではなく海苔には様々な遊離糖(free sugar)まで含まれており、甘く深い味わいとなる。
「根が岩にくっついているが、枝はなく、岩の上に広範囲に広がっている。色は紫黒で味は甘く良い」
韓国最初の海洋生物百科事典といわれるチョン・ヤクチョン(丁若銓、1758~1816)の『玆山魚譜』に出てくる紫菜に関する説明だ。長く幅広い葉の先の部分が根っこのように岩にくっついて育つ赤黒い色の紅藻類の紫菜、海苔の形と色彩、味に関する描写だが実に正確だ。成長の早い海苔は表面にきらきら輝く潤いがあり、葉緑素、カロテノイド、フィコビリンのような色素が光を吸収することで赤黒い色を帯びる。火で焼くと熱に弱いカロテノイドとフィコビリンは破壊され葉緑素だけがそのまま残り、隠れていた緑色が現れる。
海苔にはグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸のすべてが含まれている。これら三者が合わさることによって、作り出されるうま味の三重奏は足し算どころか掛け算クラスだ。
豊かな微量栄養素
海苔は栄養構成の面でもすばらしい食材だ。乾燥海苔にはたんぱく質が42%、炭水化物が36%含まれているが、たんぱく質の供給源としては量的に十分ではない。一日に乾燥海苔1枚(3g)を食べても一日のたんぱく質の必要量の2%にしかならない。しかし、海苔にはビタミンやミネラルのような微量栄養素が豊富だ。土に根を張って育つ陸地の植物に比べて、海藻類のミネラル含有量はおよそ10倍に達する。
海苔はβ-カロテン、ビタミンC、ビタミンEだけでなく、菜食中心の食事に不足しがちなビタミンB12と鉄分、オメガ3脂肪酸が豊富だ。また他の海藻類に比べて含有量は少ないものの、欠乏を補うに十分なヨウ素も含まれている。昔、イギリスでは海苔が薬草のように扱われていたが、それもこのような理由からだ。ウェールズ地方の母親たちは「ダービーシャーの人々のように喉を腫らしたくなければ、ラヴァーブレッドを食べなければならない」と子供たちに教えたと伝わる。海産物の摂取が不足しがちだったイギリス内陸のダービーシャー地方の人々が、ヨウ素不足による甲状腺腫を患うケースが多かったために生じた話だ。
最近では、海苔に豊富に含まれる糖類成分・ポルフィランの機能性に関する研究も活発に行われている。ポルフィランは海苔の細胞と細胞の間を埋めている物質で、引き潮の時に海苔が生き残れるように保護する役割を果たしている。海苔は主に潮の干満差が大きな沿岸に生息している。満潮時には冷たい海水から自分を守らなければならず、干潮時には紫外線と空気にそのまま露出するという過酷な環境の中で生き残らなければならない。このときにポルフィランは水分を維持し海苔の細胞が乾燥しないよう細胞壁の柔軟性を維持し、干満の両極端な環境下でも生存可能にしてくれる。
この成分が人の腸内に入ってくると、食物繊維として作用し癌の発生率を抑え、免疫調節の役に立つことが明らかになった。また干潮時に紫外線に露出して受ける酸化ストレスから自らを保護するために作られる海苔の中の様々な抗酸化物質も人体に有益な効果があると期待されている。
キムパブは、海苔の上にごはんを薄く広げて、その上に和えたほうれん草、細長く切って炒めたニンジン、タクワン、牛肉のひき肉を炒めたもの、卵焼きなどをのせてから丸く巻いて作る海苔巻きだ。最近は好みに合わせて材料や形も実に多様だ。 © Topic
春になって海苔が古くなり味が落ちた時には、もち米の粉を水で溶いたものを塗って、油で揚げて作るキムブカクにして食べる。© 宮中飲食研究院
人口養殖技術の開発
このように海苔は味と栄養面ですぐれた食品だが、現在のように養殖して食べられるようになったのは、さほど昔のことではない。海苔の養殖は基本的に自然環境にそった方法だ。すなわち、海苔が岩や貝殻について育つのを利用して、海苔の胞子を牡蠣の殻や木製のすだれ(海苔網)につけて干潟に差しておくのだ。固定した支柱に海苔網を広げて満潮時には潮につかって成長し、干潮時には、空気中に露出するような支柱式養殖は、岩海苔が岩にくっついて育つのと同じ原理だ。17世紀頃に韓国、日本、中国の遠浅の海でこのような方法で海苔の養殖が始まったというが、長い間、海苔の種を育てる育苗方法が分からず苦労していた。
夏には消えていた海苔がいったいどのようにして、秋の終わりの頃になると再び姿を表すのかが分からず、自然に現れる海苔の殻胞子を待って種を得て使うほかなかった。しかし、1949年にイギリスの藻類学者のキャスリーン・メアリー・ドリューベーカーが、海苔の生命の周期を研究し、それまで別の種だと考えられていたConchocelis roseaという藻類が、実は海苔の生涯周期の中の一つの段階であることを明らかにした。海苔の人工採苗に画期的な突破口が作られたのだ。彼女の研究のおかげで海苔養殖の生産性は驚くほどに向上し、海に依存していた採苗が陸上でも人工的に可能になった。日本の九州熊本の宇土市には、海苔の大量養殖を可能にしたドリューベーカーを「海の母」と呼んで、彼女の功績をたたえる記念碑を建っている。
その後、海苔網に胞子を付着した後に冷凍保管し、必要に応じて海に設置する冷凍網方式が開発され、それ以降はより安定した大量の養殖が可能になった。以前には潮の干満の差が大きい沿海での支柱式養殖だけが可能だったが、浮きをつけて海苔網をかける浮遊式養殖が開発され、遠海でも養殖できるようになり、おかげで生産量はさらに大きく増えた。だが依然として海苔養殖は、大きな労力を必要とする過酷な作業である。
韓国は日本、中国とともに世界の三大海苔生産国であり、輸出量では両国をはるかに上回っている。韓国で生産された海苔はヨーロッパ、アメリカ、アフリカなど世界100カ国あまりに輸出され、「海の半導体」と呼ばれる。
一年中、人気の食品
海苔の上にご飯を薄く広げて、その中央に各種調理した野菜と細長く切ったタクワン、ハム、卵焼きをのせて巻いて食べるキムパブは、韓国人がもっとも好きな昼のメニューであり、人気の高いおやつだ。ピカピカとつやのある真っ黒な海苔で包んだご飯と様々な具材が口の中で合わさり、妙味を作り出す。キムパブを食べる度に、現在私たちが食べている食べ物は、世界の人々が長い歳月をかけて、知識情報を共有し、共助によって作り出された賜物だという事実に感動する。海苔はそれで尚いっそう美味しい。
チョン・ジェフン 鄭載勳、薬剤師、フードライター