建築美術の一種である丹青(タンチョン)は、木造建築の保存のために古くから使われており、仏教の受容と共にさらに発展し今日に至っている。パク・クンドク(朴根徳)さんはこれまで20年間、文化財の復元作業をしている丹青専門家だ。さらに伝統的な丹青から得たモチーフを自分なりの視点で再解釈する創作丹青作家としても活動中だ。
パク・クンドク(朴根徳)提供
韓国の古宮や寺刹では花の咲く季節でなくても華やかさが感じられる。多彩な模様と配色で建物を美しく飾る丹青があるからだ。本来、丹青は気候の変化に脆弱な木造建築を暑さや寒さ、湿気などから保護して耐久性を強化することを目的として生まれた。さらに模様の使用と彩色の方式を通じて王室の権威や宗教的な神聖さを表す役割も果たしてきた。
「丹青は建物に着せる服だと言えます。王と臣下の衣服に区別があるように、丹青も建物の用途と重要性によって模様と色が変わってきます」
パク・クンドクさんの説明だ。仏教の影響を受けた丹青は、韓国だけではなく仏教文化圏のモンゴル、日本、中国、チベットでも見ることができる。しかし様式は国ごとに異なる。日本は赤色の彩色が特徴的で、中国は青色と緑色を主に使う。それに比べて韓国の丹青は陰陽五行思想にもとづき青、赤、白、黒、黄の五方色(東西南北と中央の五つの方位を象徴する色)を補色対比で彩色するが、暖色と寒色を交差させて明暗に差をつけることで華やかさを極大化している。
パク・クンドクさんは伝統丹青に新たな解釈を加えた作品で2022年、初の個展を開き好評を得た。その後、継続的に個展を開いている。彼女は伝統丹青でよく使われる模様以外にも、周辺でよく目にする野花をよく描いている。
模様と色の組合せ
丹青作業は彩色作業の準備段階としてアキョ(阿膠:伝統接着剤)を塗るところから始まる。まず丹青を施す部材の隙間や穴を塞いでサンドペーパーで表面を整えてからアキョを2回以上塗る。その次にセラドナイト(緑土)や石間硃(黄色みを帯びた赤色の顔料)のような天然顔料で下塗りをする。紙に下絵を描き模様の外郭線にそって草針を使い一定間隔で穴をあけていく。その次に丹青する部材面に図案をのせて貝粉を入れた粉袋で線に沿って叩いていき、模様が現れるようにする。丹青する色を作り、図案の通りに彩色した後に、貝粉を払い落としてえごま油を塗って仕上げる。
丹青は大きく四つに分類される。まず何の模様も入れずに、色も一色だけで塗る方式がある。これは最も低い等級の丹青様式で、位階の低い建築や一般住宅に使用される。しかし朝鮮時代(1392~1910)の歴代王と王妃の位牌を祀っている宗廟のような最高の位階の殿閣にもこのような方法が使われる場合がある。空間の厳粛さを表現するためだ。二つ目は下地を塗った後に、その上に線を描く方式がある。主に祠堂のような付属の建物に適用されるが、線を入れるだけでも格式が備わる。またポ(梁)とトリ(桁)のような部材の両端の部分にだけ模様を描き、中心部に彩色だけを施す場合もある。寺刹の付属の建物をはじめとして王宮の殿閣や書院、亭子など一般的な建築の丹青によく使われる形式だ。このように部材の端の部分にだけ入れる模様をモリチョ(頭草)と言うが、建物の品格に合わせてモリチョが華やかになったり、簡素になったりする。最後に部材のすべての部分にぎっしりと模様を入れて華やかさを極大化する方法もある。大雄殿のような寺刹の主要建築に使われる最高等級の様式だ。
緑色の天然顔料は丹青作業で最も頻繁に使われる材料だ。すべての顔料は色を塗る前にすり鉢で細かくすった後、ふるいでろ過してから使用する。粒子が細かいほど彩度が低くなる。
「朝鮮王朝実録を見ると儒教の学者たちが『私家の丹青を禁止して欲しい』と王様に上訴したという記録があります。それだけ丹青は豪華なものとされており、王宮でさえも最高等級の丹青は使いませんでした。儒教の影響もありますが、昔も今も丹青の原料が非常に高価な原石だからというのも理由です」
丹青の模様もいくつかに分かれる。最も頻繁に使われるのは蓮花モリチョ(頭草:柱や梁の先端部分に施される花の模様)だ。蓮花、石榴、緑花(緑色で描いた花模様)などの組合せで出来上がる蓮花モリチョは寺刹や王宮だけでなく郷校・書院のような儒教建築物の丹青としてもよく見かけるものだ。
「私も蓮花モリチョをたくさん応用して描きます。基本に忠実に描くこともしますが、時には中心に位置する蓮花の代わりにタンポポ、ミゾソバのような在来種の野草を模様にして描いたりもします」
パク作家は苧(からむし)、絹、麻を自ら天然染色して使用する。横糸と経糸(たて糸)が交差する織物の特性上、色を正確に表現することが難しいので、乾くのを待ってから、また色をつける過程を何度も繰り返す。
新たなチャレンジ
パク・クンドクさんは2022年に「ギャラリーイズ」で開催した最初の個展『ゴールドガーデン』以降、毎年個展を開き伝統的な丹清技法を使い、新しい感覚で形象化した創作丹青を発表し好評を得ている。去年は「ギャラリーハノク(韓屋)」が主管した仏画・民画公募展で最優秀賞を受賞し、続いて「ムウス(無憂樹)ギャラリー」の招待展では、動植物をモチーフにした作品「マダラで未熟なゾウ」で注目を浴びた。
この展示では頭に蓮花とタンポポを飾ったゾウや、先史時代の遺物である蔚州大谷里盤龜台岩刻画に刻まれているクジラを丹青にした作品を見ることができる。そうかと思えば、火花の代わりに波模様の羽をした鳳凰、絶滅危惧種の自生植物の模様をした魚、絹の上に端雅な姿で横たわる済州島産の大根と人参などが丹青で装飾され個性的な存在感を発している。
「伝統的な丹青には蓮花や牡丹のような象徴性のある花が模様として多く使われますが、私の個人的な作業をする場合には、好きな花や周辺でよく見かける野の花を模様として使っています。そして伝統丹青では各種模様が互いに組み合わされていますが、私はこの模様を一つずつばらばらにした後で、私が表現したい形にもう一度組み合わせています。このような試みが面白いんです」
彼女はわずかな誤差も許されない厳しい文化財復元作業から受ける緊張感を、自分だけの世界を映した作品を通じて解消していると話す。
「文化財の位置する場所はたいてい、まわりの風景も素晴らしいんです。作業現場を抜け出して周辺の自然の中を歩いていると心が落ち着いてきます。一束の草や一個の石にも目が行き、小さな花びら一つも見逃しません。じっと眺めているとそれぞれの世界が目に飛び込んできます。その瞬間のイメージを模様にしてみようという思いから、創作活動を始まりました」
Goldgarden―凰
40 × 26 ㎝
キャンバスにアクリル
2018年
鳳凰は太平聖大な世に現れるという想像上の動物で、鳳は雄、凰は雌を意味する。作家は鳳凰の羽を波と波型模様で表現している。
パク・クンドク(朴根徳)提供
創作の源泉
文化財修復技術者である彼女は、男性作業員が多く占める作業現場の陣頭指揮をとる。文化財修復技術者の役割が文化財修復技能者の作業を指導し、監督することだからだ。
パク・クンドクさんは1999年東国大学校美術学部に入学して仏教美術を専攻した。卒業と同時に文化財の復元現場で働きはじめ、隙を見つけては勉強し資格証を得て2022年からは丹青管理をしている。
「荒々しい工事現場で一番下から仕事を習ってきましたが限界がありました。それで大学院に通いながら丹青技術者の資格証を取ったんです。親方に弟子入りして技術を身につける徒弟式の現場から来たほとんどの作業者たちは、大学で専攻してきた人間に好意的ではありません 。最初の挨拶で『誰の下にいたのか』『師匠はだれか』から聞かれますから。どの師匠の草、すなわち下絵をもらって修練したかによって その派が別れます。それでずいぶん苦労もしましたが、今はネットワークが発達していろいろな現場を経験しながら多様な技術と技法を学ぶことができるようになりました」
文化財の復元は主に公共機関の工事なので、徹底して設計図から作業が始まる。時に作業の途中、設計上の問題が発生することもあるが、その際には補修から再設計の可否に至るまで、発注処と現場の間を調整をすることも彼女の重要な役割だ。
「顔料と接着剤を混ぜる比率一つをとっても絵画や金箔作業には、教科書のようなマニュアルがあります。しかし丹青は建築物の位置や気候など、いろいろな条件を考慮しなければならないので、よりたくさんの経験が重要なんです」
GoldgardenⅦ―20190421
116.8 × 72.8 ㎝
木綿に天然染色した後に、金箔・金粉彩色
2022年
王宮や寺刹で主に使われる丹青模様で像の耳と鼻を装飾している。スリランカ旅行の際に見かけた像の姿に、作家がインスピレーションを得て制作した。
パク・クンドク(朴根徳)提供
丹青の作業は、絵画はもちろん書道、ドローイング、工芸にまでいたる総合的な技量を必要とする。それが特に丹青に惹かれる理由でもある。
「丹青技術者は仏画も補修しなくてはなりません。仏教美術には仏画もありますが山水画もあります。サンスクリット語の入る絵もあり、トラが登場する山神図もあります。それで丹青技術者は文字と仏画、花鳥図、水墨画も、すべて勉強しなくてはなりません」
彼女は古い建築物に残された昔の人々の筆のタッチを見ると旋律が走るという。この仕事をしていて本当に幸せだと感じる瞬間だ。その幸福感がまさに創作の源泉だ。