分断という朝鮮半島の独特の状況下で、軍隊を題材にしたテレビ番組が大衆の関心を呼び起こすのは、ごく当たり前な現象かもしれない。最近、特殊部隊出身の出演者が熾烈な競争を繰り広げるミリタリーサバイバル・バラエティ番組『鋼鉄部隊』がユニークな企画で話題を呼んでいる。
韓国で軍隊を題材にしたにコンテンツはロングセラーである。それにもかかわらず、昨年ユーチューブのコンテンツで話題になった『カッチャサナイ(偽物の男、2020)』は、実際に特殊部隊で行われている訓練を通じて不屈の精神力を養うという企画意図で制作・配信されたが、過度に出演者が酷使されるシーンによる「虐待論争」の最中、配信停止となった。「軍隊」という題材自体が視聴者に不快な残像を残している状況では、新たに登場するミリタリーサバイバル番組に対しても、放映前から不安視する反応があったのも当然かもしれない。
今年の3月から6月にかけて、総合編成テレビチャンネルAで放映された『鋼鉄部隊』は、六つの特殊部隊の予備役たちが出演するサバイバルミリタリー芸能番組。それぞれ所属していた各部隊別に、特殊技術を持った出演者たちが極限の対決を繰り広げ、最後に優勝部隊を決めるという企画で多くの視聴者の関心を集めた。
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予想外のブーム
しかし、今年3月23日から6月22日までの3カ月間、毎週火曜日の夜、チャンネルAで放送されていた『鋼鉄部隊』はスタートとともに、このような不安を期待に変えた。特殊部隊出身の予備役でチームを構成し、最高の部隊を選り分けるというこのサバイバル番組では、最初から訓練そのものが不要だった。体力的にも万端の準備を整えた出演者たちが、部隊別に対決を繰り広げるという点でも、加虐論争が介入できない構成だったのである。その代わり、番組には自分が属していた部隊の名誉をかけた熾烈な競争とスポーツマンシップが加わった。冷たい夜の海に飛び込んで人命救助をしたり、4人一組になって250キロの重さのタイヤをひっくり返しながら300メートルを移動したり、40キロの軍装を着用したまま10キロの山岳行軍をするなどといった厳しいミッションは、勝敗だけでなく、その完走に焦点が当てられた。すでに脱落が決定したチームでさえ最後までミッションを完遂したのは、部隊の名誉を守るという意志があったからこそ可能だったのだろう。そのため、敗者にも惜しみない拍手が送られた。
それに加えて、並外れた体格にハンサムな外見の出演者たちが繰り広げる「対テロ作戦」や「ソウル艦奪還作戦」などは、まるでゲームを連想させるファンタスティックさで女性ファンまで魅了した。「レインボーシックス」や「バトルグラウンド」のような一人称シューティング(FPS)ゲームを、実際のバージョンで見るかのような緊迫感溢れる様々なシーンも熱い反応を呼んだ。
ミリタリーコンテンツの系譜
圧倒的なフィジカルの出演者たちの人気は、放送回数が進むにつれてエスカレートしていった。中でも、海軍特殊戦戦団UDT/SEAL爆発物処理大隊から下士に転役した陸俊書は、最も人気を集めた出演者の一人。彼の所属するUDTが、最終優勝チームとなった。
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『鋼鉄部隊』以前にも韓国には様々なミリタリーコンテンツが多数あった。1987年から1991年までKBS2テレビで放映されたお笑い番組『ユーモア1番地』の番組コーナー「動作ストップ」は、兵営の生活をコント・コメディー形式で制作したものだ。軍隊の経験に対する視聴者の幅広い共感を背景にしながらも、軍内の序列関係を風刺したこのコーナーは、韓国人が軍隊に対して持っている相反する感情を刺激した。つまり、働き盛りの20代にとって兵役義務で入隊した経験は、二度とご免だというキャパシティを超えた不快な感情と同時に、自分が経験したことをなんとなく自慢したいという感情が入り混じっ複雑な心理状態へと導いたのだ。『動作ストップ』はその辛さと誇らしさに対する共感に、軍隊内の序列文化という不快感をそっと添えてユーモアに表現し、大きな人気を集めた。
1989年から1997年までMBCテレビで放送された『友情の舞台』は、典型的な軍隊慰問公演番組で、その後2003年から2007年までKBS1テレビで放送された『青春! 通報します』などの類似番組へとつながった。当時の軍隊は今よりもはるかに外部と隔離された環境で、このような慰問公演形式の番組は、軍人と一般人が出会える疎通の時間として認識されていた。特に、『友情の舞台』の最後の番組コーナーである「懐かしいお母さん」では、軍部隊を訪れた母親と息子が久しぶりに出会う場面が放映され、毎週話題を呼んだ。
南北が対峙しているという朝鮮半島独特の状況下で、軍隊は容易に外部に公開されることのない空間である。しかし、MBCテレビで2013年から2019年にかけてシーズン1、2が放送された『チンチャサナイ(本物の男)』は、様々な部隊に芸能人が短期入所し、軍内での経験を盛り込んだ破格な内容を披露した。当時、バラエティ番組の新たなトレンドとして浮上した観察カメラ(リアリティショー)が軍隊の内務班まで侵入し、その生々しい体験を視聴者に伝えたのである。もちろん保安上の理由から、ある程度「準備された内務班」の状況しか見せられなかったものの、過去に比べて韓国の軍隊がはるかに開放的に変貌していることを示した事例だったといえよう。
2013年、韓国空軍が映画『レ・ミゼラブル』をパロディ化して広報映像として制作した動画『レ・ミリタリブル』は、原作でジャベール警部を演じたラッセル・クロウが言及したことで話題となり、イギリスBBCで報道されたこともある。このことに刺激された韓国陸軍は、当時『江南(カンナム)スタイル』で世界的な注目を集めていたPSY(サイ)の『ジェントルマン』をパロディ化した『ジェントル兵』を発表した。韓国の軍隊に対する過去のネガティブなイメージから脱却し、大衆に親近感をも持ってもらおうと努力していることを示したのだ。
『鋼鉄部隊』3、4話で特殊部隊予備役たちが、IBS浸透作戦を遂行している。隠密な海上浸透や偵察などの目的に使われるゴムボートIBSは、重量が250キロにも達する。
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サバイバル番組との出会い
時代とともに大衆の感性も変わってきた。『本物の男』をパロディ化した『偽物の男』は、「本物になろうとする偽物たちの挑戦」という旗を掲げ、競争を通じて選抜された一般人が海軍特殊部隊(MUSAT)の訓練を受けるという厳しい過程を描いている。テレビ番組に比べて比較的自由な表現が許されるユーチューブというプラットフォームの特性上、過酷なまでにレベルの高い訓練課程が手加減なく公開され、これが大きな反響を呼んだ。ユーチューブコンテンツは、主に一人からなる個人クリエイターによる放送として知られているが、『偽物の男』は様々な有名ユーチューバーが集まって共同制作した統合的な放送で、例えユーチューブであってもブロックバスター級(大ヒット作品)のコンテンツ制作が可能だということを証明するきっかけとなった。
特に、『偽物の男』を通じて大衆に知られた一部の特殊部隊出身の教官は、放送やユーチューブで有名人になるほど大きな関心を集めた。イギリスのDiscovery Channel(ディスカバリーチャンネル)で2006年から2011年まで放送された『MAN vs. WILD(日本名:サバイバルゲーム)』で、イギリス軍特殊部隊出身のベア・グリルスがサバイバル番組のホストを務めたように、今韓国の特殊部隊出身の予備役がサバイバル番組の主役として登場しているのだ。また、昨年には特殊戦司令部出身の女性教官が、女性芸能人が配信しているユーチューブサバイバル番組『私は生きている』で話題になったのも、もはや軍隊題材のコンテンツが様々なバラエティ番組へと拡大していることをよく示している。『鋼鉄部隊』はまさにこの変化の頂点で、これまでの軍隊コンテンツとサバイバルプログラムの精髄を究めた成功事例なのである。
分断と対峙という特殊な状況下で、軍隊は閉鎖的な空間にとどまるしかなく、民主化後も容易に開放されることのないところだった。しかし、今や年長者は退場し、新しい世代が主役として登場しており、韓国の軍隊も少しずつ変貌し始めている。長い間、大衆の関心を集めてきたミリタリーコンテンツの変化の過程は、実際の軍隊の変化の過程と相似ている。孤立し、閉ざされていた軍隊が少しずつ正体を現し、そこでの経験がテレビ番組を通じて大衆に楽しさを提供し、ひいては日常におけるサバイバルのためのノウハウとしても活用されているのである。
長い間大衆の関心を集めてきたミリタリーコンテンツの変化の過程は、実際の軍隊の変化過程とも結びついている。
『鋼鉄部隊』第2話で「対戦決定権」をめぐって、最強隊員選抜戦の6部隊が対決を繰り広げている。メインミッションの他にもアドバンテージを賭けたサブミッションが同時に行われた。
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