ナスは暑い夏を代表する野菜だ。「梅雨は茄子を食べる楽しみで過ごす」は韓国のことわざで夏野菜のナスがもつ魅力をよくあらわしている。強烈な日差しに立ち向かうアントシアニンの紫色に輝くナスを食べると、人々は暑い夏を乗り切ることができるという自信をもつのではないだろうか。
「料理は人間の技術の中でも最も古いものだ」
フランスの美食家ジャン・アンテルム・ブリア-サヴァランが残したこの言葉には、深い考察が含まれている。どんな食材をどのように料理して食べるかに、その食文化の特徴と歴史がそのまま現れるということだ。彼の言葉を逆に考えてみれば、歴史が古い食材ほど調理方法も多様だということだ。
たとえば、ナス科の植物であるナスとトマトを比較してみよう。ナス科植物では葉と花の部分は、含まれているアルカロイド成分のために食べることができず、食べられるのは生物学的な観点からいうと、これらの植物の実の部分だ。しかし、韓国人の食卓ではトマトはおかずになることは少ない。
ほとんどの国でトマトを野菜として扱っているのとは違い、韓国人はトマトを果物と考えているからだ。青いトマトを塩辛いジャンアジ(漬物、ピクルス)にして、おかずとして食べる場合を除いては、トマトは大部分果物として消費されている。リンゴや梨のように食後の果物として食べたり、ジュースにして飲んだりする。反面、ナスは韓国人の食卓で野菜として扱われている。大根、白菜、かぼちゃのような野菜と同様に、ご飯と一緒に食べている。
へたを取って洗ったなすを蒸し器で蒸したり、炊き上がったばかりのご飯の上にのせて蒸したりする。熱いナスを少し冷ましてから、火傷をしないよう冷水に手をつけながら裂いていく。斜め切りにした青唐辛子に醤油、ごま油、ごま塩と合わせて作った調味料をこれにかけて和える。これは1931年8月4日付けの『東亜日報』に紹介されたナスのナムルの作り方だ。またこの記事には7~8月のナスが安く手に入りやすいときに日干しにしておき、冬に取り出し水に浸したあと水気を切り、調味料で味付けして食べる方法、生のナスを薄く切って塩漬けにしてから細かく切った野菜やマスタードを入れよく混ぜて食べるなどの調理法が紹介されている。
生でも食べた野菜
昔から様々な料理に使われてきたナスは、最近でも人気のあるおかずに属する。食べやすい大きさに切ったナスに小麦粉をさっとまぶして、油で揚げて調味料に漬けたり、薄く切ったナスの上に牛肉のミンチを乗せて、溶き卵につけて油で焼く「チョン」にして食べたりする。最近では海外旅行や海外との交流が増えるにつれて、中国料理の魚香茄子(ナスの四川風辛味煮込み)や日本料理の焼き茄子、イタリア料理のメランザーネ・アッラ・パルミジャーナ(茄子のパルミジャーナ)を家で作ってみる人も増えている。
トマトとナスはどちらもナス科の植物の実ではあるが、韓国人の食生活でトマトとナスの扱い方がこのように違うのは、これらの野菜が韓国の地にやってきた歴史と関連性がある。ラテンアメリカが原産地のトマトは、17世紀初めに韓国にやってきたが、定着はしなかった。その後、20世紀の初めに再び流入した。それでトマトが韓国料理になじむには、その歴史が短かったというわけだ。反面、熱帯アジアを原産地とするナスは、トマトよりもはるか昔にインドから中国を経て朝鮮半島に伝わった。すでに新羅時代に栽培されていたという記録があるほど食材としての歴史が長いだけに、料理の歴史も深い。
高麗時代になって、韓国人の食卓にナスがしめる位置が確かなものとなったように見える。高麗時代の文人であり詩人のイ・ギュボ(李奎報、1168~1241)は『家圃六詠』という詩の中でナスの味と美徳をこのように詠んでいる。
紫色の地に頬紅を帯びている姿、
どうして萎えたと言えよう
花は愛でて実は食す茄子、
これほどの野菜が他にあろうか
畝の中には茄子がいっぱい実り
生のままで食べても良し、
煮ても実に旨い
ナスを生のままで食べるという話には驚かされる。しかし事実だ。今も韓国人はナスをそのまま味噌につけておいてジャンアジ(漬物)にして食べたり、キムチ漬けにしたりする。このようにナスは生で食べても害はない。ナスには他のナス科の植物の実と同様にソラニンという毒性のアルカロイドが含まれているが、もともと少量なうえに一度に30本から40本以上を食べなければ問題はないという。しかし、ソラニン成分は加熱しても破壊されないのでソラニンが多量に含まれているナスの芽の部分は必ずとらなければならない。
一方、ナスにはニコチンも含まれている。やはりナス科の植物の特徴だ。食べ物の中のニコチンもまた加熱しても破壊されない。しかし、ナス10kgに含まれるニコチンの含有量がタバコ1本に含まれる量と同じ程度の少量なうえに、それさえも体の中に入るとすぐにほとんど肝臓で解毒されて体外に排出されるので、人体には特別影響を与えることはない。
野生のナスでは、この苦味成分が外部の侵入者から自らを守るのに役立つが、ナスを食べる人間の立場からすれば明らかに毒だ。ナスに毒性があると考えた古代のローマ人たちは、これに「狂ったりんご」という名前をつけた。今日、イタリア語でナスを「メランジャナ(melanzana)」と呼ぶのはそのような理由からだ。ベドウィン族の古い記録に「その色はサソリの腹のようで、その味はサソリの毒針のようだ」と言及されていることからもナスの苦味は、以後数世紀の間、悪名高かったようだ。
熱帯アジアを原産地とするナスは、トマトよりもはるか昔にインドから中国を経て韓半島に伝わった。すでに新羅時代に栽培されていたという記録があるほど、食材としての歴史が長いだけに料理の歴史も深い。
様々な色と形の新種を開発
しかし今日のナスは、過去の「狂ったりんご」とは距離が遠い。人類は長い間の育種と作物化の過程を通じて、苦味の成分を減らして様々な色彩と形態の品種を開発してきた。その結果、枝豆のように小さな品種 「Thai Pea Eggplant」、長さ40cmに達する巨大ナス「Japanese Pingtung Long Eggplant」、重さが650kgほどの重い品種「Black Enorma」などが生じた。カラーも青ナス、白ナスに加え、紫地に縞模様まである色々なナスが作られた。そのひとつが一時アメリカで多く栽培された白い卵型をしたナスだ。英語の単語「eggplant」はここからきている。
一方、ナスの苦味を嫌う人々は、この味を減らすための処理方法を研究した。ナスを切って30分から1時間の間、粗塩を振っておき、ほろ苦い汁を抜く方法が昔の料理本にたびたび登場する。もちろん塩が水気をとる役割をすることはするが、苦味の成分を効果的に除去するのは難しい。それにもかかわらず、昔から多くの料理人がナスを塩で調理したのは、塩の塩辛さが苦味を抑えて香りをよくするからだ。最近のナスは苦味が少なく、わざわざこのような手間をかける必要はないが、切っておいたナスに塩を振っておくのは他の面からも有用だ。
一般家庭でよく食べられている最もポピュラーなナス料理は、ご飯のおかずナムルだ。蒸し器でさっと蒸したナスを食べやすい大きさに裂いた後、ヤンニョム(醤油、酢、長ネギの千切り、ごま油、ごま塩)に入れてそっと合わせる。
お客をもてなしたり、ナスを特別な方法で調理したいときには、平たく切ってからフライパンで焼いたり(左)、厚く切ったナスの間に味つけた牛肉のひき肉をはさみ、小麦粉をまぶし、とき卵をつけて油で焼くジョンにして食べる。
千の顔をもつ食材
ナスの組織はスポンジのような内部構造でできているが、それにより発生する質感が甘いので、独特な風味と共にこの野菜が愛される理由となっている。しかし、油で揚げたり炒めたりすると、無数の空気袋の中に相当量の油を吸い込み、とろとろになってしまう。それで事前に塩を振っておけば細胞内の水分が外に出て空気袋を一杯にするので、このような現象を減らすことができる。トルコ式のナス料理や中国四川式のナス料理は、香味油がナスの中に染み込む現象を逆にうまく利用して風味いっぱいの料理となっている。
そうかと思えば、東南アジア地域ではナスの苦味を逆利用して料理の味をさらに豊かにしている。タイでグリーンカレーに苦味のあるタイナスを入れるようなケースだ。ナスは様々な国で肉の代用品として愛用されているが、甘いデザート料理にして食べる野菜でもある。それでナスは非常に多彩な属性をもった食材というわけだ。実際に中東地方には「1000のナス料理方法を知らずしては、結婚する準備が出来ていない」ということわざもある。それほどナスを料理に多用するという意味であると同時に、「熱い太陽の下で紫色に輝くナスほど、美味しい野菜があるだろうか」と思わせる話でもある。
紫、赤、青の色に秘められたナスの皮には、抗酸化物質のアントシアニン成分が豊富だ。青い絵の具のように染まってしまうこの野菜の成分は、主にナスの皮の部分に含まれており、紫外線やストレスから保護してくれ、100g当り700mgに達するほどに豊富だ。人体への吸収率に対する疑問は残っているが、ナス料理をする時には、皮は剝かずにできるだけ皮のままで料理することをお勧めする。
チョン・ジェフン鄭載勲、薬剤師、フードライター