韓国公正取引調整院が発表した「2016年フランチャイズ業種別加盟店現況」を見ると、チキン店が2万4453軒で、3万846軒のコンビニに続く第2位を占めている。3番目は韓国料理店で前の二つよりもはるかに少ない1万9313軒と集計されている。これはチキン店の経営には特別なスキルが必要なく、多くの自営業者がチキン店を選択しているからだ。しかしこのレッドオーシャンは特別なスキルは無くてもかまわないかもしれないが、特別な原則は必要だ。
ソウル西村でフランチャイズチキン店をしているチョン・チョルスン(鄭哲淳)夫妻は、多忙な日常の中でもいつも笑顔を絶やさない。
会社勤めをしていて何か問題に突き当たったときに、痛快に辞表を叩きつける自分の姿を想像する人も多い。そんな時、頭の中にはいろいろな種類の自営業が浮かぶだろうが、自分を苛めた職場の上司さえいなければどんな仕事でもかまわないという気がする。自分の人生も周囲をあっと驚かせるような大逆転ができるという期待感と合わさり「もっと年取る前に」というあせりも感じる。
しかし実行はそんなに簡単ではない。この道に進もうと決めるまでには多くの苦悩と煩悩が伴う。それでも韓国人の自営業の割合が非常に高いのは、それだけサラリーマン生活が幸せではなく、また停年退職の年齢が低く、退職後の適当な仕事が不足しているという意味でもある。
自営業者になったとしても成功が保証されているわけでもない。低成長と不景気で内需市場が萎縮しているからだ。このような観点から見るとフランチャイズチキン店を経営するチョン・チョルスン(鄭哲淳)さんは非常に成功したケースに属する。
彼は一言で言って愉快な人だ。家には「自分のいる場所で最善を尽くそう」という家訓入りの額がかかっている。1960年生まれの彼がチキン店を経営して20年になる。その間、積み上げた経験と見識は本社のプランに反映されるほどだという。
「私は運営委員の資格で本社に行き、社長、会長、役員らと同じテーブルに座り、多くの会議にでます。本社ではアンケートまでしてプランをたてますが、私は初期段階から積極的に参与しています。その間、賞もたくさんもらいました」。
本社でチャーター便10便を飛ばして行った済州島国際コンベンションセンターで開催された行事でも彼は最も大きな賞をもらった。家族全員が招待されて、受賞台には家族も一緒にあがった。チョン・チョルスンさん夫妻は本社のテレビCMにもときどき顔をのぞかせているほどに、フランチャイズ業界では有名人だ。規則的に運動し、よく笑い、地域社会の活動にも熱心に参加するなど、その前向きな姿勢のせいか彼と彼の妻の顔は明るく輝き、一日中一緒に仕事をしている夫妻のとびきりの笑顔はコピーでもしたかのようにそっくりだ。
味の秘訣は特別な原則
ソウルにある会社で10年以上サラリーマン生活をしていたチョン・チョルスンさんはある日、サラリーマンとしてビジョンがないことに気付いた。変化を考えていた時期に、公州で公務員をしていた義理の兄が突然亡くなった。その後、未亡人となった姉がソウルに引っ越してきて、姉弟は一緒にカルビ店を経営した。しかし二人とも経験が無かったために、店はわずか3カ月で閉じることになってしまった。つまり彼はすでに飲食業で一度苦汁を飲んだ経験があったのだ。
そんな辛い経験が、彼がフランチャイズの店舗を開業した理由だった。本社の支援を受ければもっと安定的に店を運営できるだろうと考えたのだ。彼は妻が7年間経営していたビデオ店をチキン店に変えた。しかしその決定は簡単ではなかった。
「妻がやっていたビデオ店のすぐ隣に鳥の丸焼きの店があり、ずいぶん悩みました。ビデオ店をチキン店にすれば、お隣にしてみれば競争相手がすぐ横にできるわけです。それでも決断したのは『鳥の丸焼き』と『チキン』は違うと考えたからです。今では二種類の区分が曖昧になりましたが、あの頃は全然違いました。とにかく今だに良き隣人としてお隣さんとは仲良くしています」。
彼の店ではチキンをはじめとして多種多様なピザとチーズスティックのようなサイドメニュー、生ビールなどを売っている。その中で全売上の80~90%をチキンが占めている。長い間、チキン店を経営してきた彼が客からよく聞く話の一つに「同じブランドのチキンなのに、なぜか他の店で食べるとおいしくない」というものだ。彼はお客のそんな話を賞賛と受け止めている。
もちろんその賞賛は簡単に手に入れたわけではない。「フランチャイズは味が画一的」という一般的な固定観念を打ち破るために努力してきたからだ。そんな課題を解決できたのは、まず夫人の優れた料理の腕前があったからだ。そしてそれ以外にも彼が固守する原則が一つある。本社から提供されたマニュアルの油の温度より2度ほど高い温度で揚げることだ。これでカリカリッとしたフライドチキン特有の食感がさらにアップするのだ。
「本社から同じマニュアルをもらっても、店ごとに味は少しずつ違わざるをえません。主婦に同じ材料を与えてキムチを漬けろといっても同じ味を出すことはできません。それと同じことです。そして何よりも新鮮な油がチキンの味を左右します。私が使っているオリーブオイルも食用油よりも4倍ほど高い製品ですが、それを惜しんで必要なときに変えないでそのまま使っていては、味を落とす要因になってしまいます。私の息子はチキン店を開いた頃に生まれたのですが、いつの間にか高校3年生になりました。私は常に自分の息子に堂々と食べさせることのできる新しい油を使っています」。
子供に食べさせるという思いで作っているのだから、彼の真心が味の秘訣だと言える。それだけではない。
「本社では研究に研究を重ねてきた最上のレシピを加盟店に提供しますが、忙しいとマニュアルを守らないことも多々有ります。揚げたチキンに刷毛で一つずつソースを塗らなければなりませんが、忙しさにかまけて手を抜くと、やはりきちんとした味はでません。私たちはどんなに忙しくてもそんな原則を守っています。それが変わらないうちの店の味の秘訣です」。
「フランチャイズは味が画一的」という一般的な固定観念がある。そんな課題を解決できたのは、まず夫人の優れた料理の腕前があったからだ。そしてそれ以外にも彼が固守する原則が一つある。本社から提供されたマニュアルの油の温度より2度ほど高い温度で揚げることだ。これでカリカリッとしたフライドチキン特有の食感がさらにアップするのだ。
チョンさん夫妻の一日は、材料の搬入から掃除、調理、サービングにいたるまで息つく暇もないほど忙しく、一年中休みの日もほとんどない。
過欲のない満足が幸福の秘訣
チョンさん夫妻は自分の子供に食べさせるという思いで、良い油を使い真心をこめて作ることが味の秘訣であり、成功の鍵だと信じている。
チョン・チョルスンさんの店がある西村一帯は、昔はひっそりとした住宅街だった。そんな町が最近は文化通りとして世間の注目を集めるようになり、周りもうるさくなってきた。しかし彼の店はそんな雰囲気とは無関心だ。一日一日を誠実に働いてきたおかげで経済的にも安定し、5人家族が暮らしている2階立ての家も買ったので、これ以上望むところもない。
西村一帯は大規模デモがよく開かれる光化門広場に近いので、その影響を受けるという地域的な特徴がある。デモ隊を塞ぐために警察のバスがバリケードを築けば、配達するオートバイが動けなくなり、注文も来なくなる。そんな理由のためだけではないが、彼は社会や政治的な葛藤が減り、韓国社会が安定することを望んでいる。
一軒おきにチキン店があるといわれるほど、韓国人はチキン好きだ。その理由についてチョン・チョルスンさんは「価格帯が適当だから」だと言い、「食べやすい大きさに切って、カリカリッと揚げたチキンの食感と十分な量が韓国人の好みに合うのだろう」と考えている。
自分の店を経営すると同時に他の人々の創業も助け、既存の加盟店のメントの役割もする彼にはいつもすっきりしない問題がある。それは配達だ。直接配達することの多い彼はこう言う。
「最近は大部分の加盟店で1件あたり3000ウォン程度する配達専門業者を利用しています。実際、配達人を直接雇用するよりは、彼らに支払ったほうが安上がりです。しかし安上がり的に運営できないというのが問題です」。
彼は自営業をしながら身体は正直くたくたになるという。午前11時に店を開け、清掃、材料の準備、調理、サービング、注文を受け、配達まで一日中、妻と一緒に休み無く働いている。特に注文が重なる午後5時から9時までは息をつく暇もない。午前1時になりようやく一日の仕事が終わるくらいやることは多く、休みの日もほとんど無いので大変さは口では言い表せないほどだ。しかし彼はいつも現実に満足し、過分な欲を出すことはないという。
「うちはお客さんが列をつくって食べるほどの有名店ではありません。ただ同じブランドのフランチャイズ営業店の中で相対的に美味しいという評価を得ている店というだけです。それで十分です」。
なるほど。彼は自分の事業がどんな位置にあり、どの程度で満足すべきかを正確に知っている。まさにその点が彼がいつも笑っていられる理由のように見えた。
チョ・ウン 趙銀、詩人・童話作家
河志権写真