決められたレールにそって予定通りに走る列車は、旅の手段として不便なときがある。途中で気に入ったところに出くわしても、立ち止まったり目的地を変えたりして、新しい道に向かうという逸脱を試みることもできない。それでも最近、列車での旅行客が爆発的に増加している。この不自由で古典的な交通手段を再び見直すことになったのには理由がある。
観光列車「ヘラン (Haerang)」が海沿いを走っている。「レールの上のクルーズ」と呼ばれる「ヘラン」は最上級のもてなしを提供する。
旧世代の思い出の中の列車は、おおむね三つのシーンに登場する。一人一人の切ない事情に溢れていた軍隊に入隊するための入営列車、ガヤガヤうるさい話し声と煙草の煙でいっぱいの、大学時代のMT(新入生のオリエンテーションと歓迎会を兼ねた合宿)の鈍行列車、そして故郷へ向かう人々でごったがえしていた帰省列車。
そんな列車が今や全く違った姿を見せている。まず速度競争で自動車を追い越し、高速道路を走る乗用車よりも速い高速列車が登場した。空港から市内までの移動時間などを考慮すれば飛行機よりも速く、そして便利なのが列車だ。しかし列車の変貌は速度の魅力にだけ依存しているのではない。今では旅行に特化したさまざまな列車が全国津々浦々を疾走しているのだ。韓国の山脈地帯を走る「白頭大幹峡谷列車」、南道の海岸地帯を走る「南道海洋観光列車」、民謡アリランの故郷として有名な「旌善アリラン列車」、西海岸を走る「黄海金色列車」など、その名前から目的地と旅行の特色がいっぺんに分かる10余りのテーマ観光列車が、今この時間にも多くの旅行客を乗せて韓半島の隅々を走っている。
テーマ観光列車だけではなく、2007年夏から販売をはじめたパス型の鉄道旅行商品「ネイルロ(明日に)」は、発売初年度に8000枚が売れ、3年後には5万8000枚を販売するほどの人気商品となっている。
列車の旅の長所
観光列車として開発された旅は短いもので1時間、長いものは2泊3日の日程となっている。その時間を通して人々は何かを感じ何かを得るために、楽な自動車ではなくプラットホームに向かう。人々は観光列車にスローな魅力を発見する。時速100kmの自動車や300kmの高速鉄道からは絶対に見ることのできなかった風景が、車窓の外にあることに気付いた瞬間、昔の記憶をたどり、日常では経験できなかった思惟の世界に入っていくことになる。すなわち列車の旅は、何よりも情緒と感性を持続的に刺激する点で他の旅とは区別される。さらに運転のストレスからも開放されるので、誰かに犠牲を強いることなく、申し訳なく思う必要もなく旅ができるというのも長所だ。
サービス提供者のさまざまな配慮も一役買っている。テーマ観光列車の場合、チケット一枚で多彩な旅行地をもれなく楽しむことができる。2013年に開通した中部内陸循環列車と白頭大幹峡谷列車は、99 日で利用客が10万人を突破するほどだった。普段行くことの難しい山奥の村に列車で行くことが出来るようになった点。それぞれの駅にストーリーがあるという点も人気の秘訣だ。
一方 、2014年に運行を始めた平和列車は、年間 600万人ほどが訪れるDMZ(非武装地帯)をより特別に見ることのできる手段として知られ人気を呼んでいる。2008年に運行を始めた「ヘラン」は、パリとイスタンブールを行き交うオリエント急行にも負けず劣らず、贅沢な施設と質の高いサービスを提供し、韓国を代表する特別列車となっている。
感嘆の声さえ忘れさせる秘境
2013年に運行を始めた中部内陸循環列車Oトレイン(O-train)と白頭大幹峡谷列車Vトレイン(V-train) は、筆者が一番お勧めする列車だ。Oトレインはリスのように可愛いい形をしており、 Oトレインの「0」は「One」の略字で、江原道・忠清北道・慶尚北道の内陸地帯を一つに結ぶという意味だ。ソウルを出発し忠州を通り堤川-栄州-承富-鉄岩まで行く。列車は1号車から4号車までの4両編成で、それぞれ春夏秋冬の季節をコンセプトにしている。3号車には家族席とカップル席があり、向かいあって座ったり、集まって仲良く座って行ける。また車内では、乗務員が列車に関するクイズやナンセンスクイズを出して、時にはプレゼントももらえる。
0トレインは江原道と慶尚北道の境界線にある簡易駅の汾川駅からVトレインに乗り換えることもできる。汾川駅に降り立つと、冬でもないのにクリスマスの雰囲気をたっぷり味わうことができる。2013 年の韓国・スイス修交50周年を記念して、汾川駅とツェルマット駅を両国の鉄道旅行の代表列車駅に定めて姉妹駅となったからだ。
Vトレインの「V」は 「V a l l e y」の略字で、名前のように切り立った崖の間を走る。汾川から養源-承富-鉄岩まで往復するこの赤い列車は、温かくて優しい感じがする。この列車を通して今や姿を消した鈍行ビドゥルギ号の姿を思い出すこともできる。窓ガラスが薄く列車が動くたびに振動でガタガタいう騒音がむしろ心地よい。エアコンの代わりにゆっくりと回っている古びた扇風機もまた、過去にタイムスリップするのに一役買っている。
この列車に乗っていると、「じっくり見てこそ美しい」と詠んだ詩人ナ・テジュ(羅泰柱)の声が聞こえてくるようだ。そのせいだろうか。風景も一つ残らずじっくり見て欲しいというように列車の速度は遅い。嶺東線の両元駅で10分ほど停車するのだが、ここでジョンに添えられる一杯のマッコリは、どんな山海の珍味よりも旨い。
私がこの列車に特に愛着を抱く最大の理由は、全国のどこにもない素晴らしい風景が見られるからだ。そして全国の駅のなかで一番美しいと言える承富駅に停車するからだ。この駅は列車が深い奥地に、森の中にいることを体感させる。この秘境を発見した瞬間、感嘆の言葉さえ忘れてしまうだろう。
2014年に運行を始めた平和列車は年間600万人ほどが訪れるDMZ(非武装地帯)を、より特別に見ることのできる手段として知られ人気を呼んでいる。2008年に運行を始めた「ヘラン」は、パリとイスタンブールを行き交うオリエント急行に負けないほどに、贅沢な施設と質の高いサービスを提供する韓国を代表する特別列車となっている。
多彩なサービスと特化された施設
2015年観光列車に異色の座席が誕生したというニュースが聞こえてきた。西海岸の金光列車(W e s t Gold Train)には独特な座席、すなわちオンドル床室がある。オンドルに座って、あるいは横になって旅することができるように配慮されたものだ。このような座席がある列車は世界中どこにもないだろう。
1. 観光列車「ヘラン(Haerang)」が海の上を走っている。「レールの上のクルーズ」と呼ばれる「ヘラン」は最上級のもてなしを提供する。
2. 旌善アリラン列車は江原道の山岳地帯を横切る観光列車で、美しい自然の中の風景を満喫できる。
3. 中部内陸循環列車「O トレイン(O-train)」はソウルを出発して忠清北道-江原道-慶尚北道の主な名所を巡ることができる。車内はカップルや家族が心行くまで楽しめる構造になっている。
田舎の暖かい広間のような部屋に横たわり、天然のヒノキ枕に頭を乗せていると、土俗的な情緒に浸ることができる。さらに歩き疲れてぐったりした体の疲れをとるための足湯室も準備されている。硫黄の匂いのする道高温泉の温泉水に足をつければ、どんな疲れもすっと消えていくだろう。干潟と夕陽を楽しむのにも絶好の列車だ。
世界で最も特別な場所、DMZ(武装地帯)に行くことのできる平和列車(DMZ-train)は、特に外国人旅行者に人気がある。京義線の都羅山安保観光を楽しむことができ、臨津江駅で降りて都羅展望台と第3トンネル、都羅山平和公園などを見て回る。また徒歩やモノレール観光とも連携している。京元線はソウル駅を出発し、白馬高地駅に到着した後、昔の労働党舎と鉄柵線の道など鉄原安保ツアーを体験できる。
一方で、恋人たちが愛用する列車もある。2007 年7月に都市通勤列車の統一号を3両編成のミニ列車に改造して開通したのが、海列車(Sea Train)だ。海列車は地中海にも負けないほどの美しい東海の海の色にどっぷり浸れる列車だ。正東津を出発し、墨湖-東海-湫岩-三陟海辺-三陟駅などを往復するが、湫岩駅で降りてロウソク台岩を見物するのもお勧めだ。
海列車はそれぞれの車両にコンセプトがある。1、2号車は二列の椅子が海に向かって階段式になっており、劇場に座って海を鑑賞している気分になる。海を主題にした一篇の映画を観ている感じだ。3号車は座席が向き合っていて、一行でよもやま話に花を咲かせることができる。海列車には特にプロポーズルームも備えられていて、海を眺めてプロポーズをすれば成功率100%を保証するという。しかし何よりも海列車の面白さは、DJが乗客のリクエストを読み上げ、リクエスト曲が流れる車内放送にある。
「レールの上のクルーズ」と呼ばれる列車
数多くのテーマ観光列車の中で多くの人々がいつか必ず一度は乗ってみたいという列車がある。レールの上のクルーズと呼ばれるヘラン(Haerang)だ。ヘランは「へ(太陽)と共に」という意味で乗客はわずか54人。6人の乗務員が最高のサービスを提供してくれる。
列車内のスイートルームはゆったりとしたベッドはもちろん、応接室も別についている。食堂車ではいつでもビールやワインなどの酒類と茶果を楽しむことができる。停車する駅の地域特産物で調理した最上級の料理も味わえる。乗務員たちのマジックショー、伽耶琴、アカペラ公演など多様なプログラムが繰り広げられ、走る列車の中から眺める日没と日の出は特別な経験となるだろう。ただし、ヘランの2泊3日コースのお値段は244万ウォンからなので、高価すぎるという声もでるだろう。
年をとったら乗れなくなる列車もある。満29歳以下の内国人が利用できるネイルロ(R a i l路)がそれだ。7万ウォンのこのパスを購入すれば7日間KTXを除いたすべての列車の立ち席と自由席を好きなだけ利用できる。自由に列車を乗り換え全国どこでも旅行できるので、夏休みや冬休みを迎えた大学生に比較的安い値段で冒険まじりの旅行を提供している。またネイルロパスは駅近くの宿泊施設や飲食店などの割引券など多種多様なクーポンも一緒についてくる。29歳を越えたとガッカリすることはない。一般列車の立ち席と自由席を3日間6万5000ウォンで、自由に利用できる、ハナロパスがあるからだ。