民画は、描く側も見る側も全て一般の人たちで、その当時の望みや願いが込められた「大衆の美術」だ。したがって現代の民画が、今の人々の関心事を反映しているのは自然なことだ。21世紀の民画は、この時代の物語と願望とともに変化しようとしている。
数十年前まで、民画を楽しむ人は限定的だった。1970~1980年代には、日本の画商をはじめ海外のバイヤーや韓国の主要ホテルなどが「牡丹図」、「十長生図」、「鵲(カササギ)と虎」といった伝統的な民画を購入していた。しかし現在、主婦が趣味で民画を学び、ファッション・ビューティーブランドが民画作家とのコラボレーションで製品を発売するなど、幅広く受け入れられている。
このように民画の大衆化が進んでいるが、その始まりは、民画教室で民画を描いていた「民画教室で習得した作家」にある。多くの民画教室出身作家が1990年代、大学の生涯教育院や百貨店の文化センターなどに移ったことで、民画が普及していった。特に、お手本の画像模写という教育方法によって、絵を描いたことがない人でも簡単に入門できた。そのため、民画の画壇が形成された当初、模写した伝統的な民画が主流だった。
しかし、2000年代に入ると民画作家が急増し、作家の技術も大きく向上したことで、民画を現代的に変容させる段階へと進んだ。特に、既存の伝統的な民画の形式だけでは、現代の感性と価値観を反映するのは難しかった。そのため、従来の様式を解体して、新しいスタイルに再構成する作家が増えている。
『モダン・タイガー』 クム・グァンボク(琴光福)、2020 壮紙(韓紙の一種)に棒絵の具・水干絵の具・チューブ絵の具・糊粉 130×160㎝
現代の物語
クム・グァンボク(琴光福)氏は、伝統的な民画だけでなく創作でも素晴らしい技量を発揮している作家だ。「厄除けの意味を持つ虎で、韓国文化を守ろう」というメッセージをユーモラスに表現している。彼は「民画が先人の暮らしの中で自然に生まれたように、現代の作品には今の物語を収める必要がある。民画が発展を続けるためには、吉祥的なメッセージを超えて、歴史的な意識を込めなければならない」と強調する。
また、ソウルとニューヨークで活動しているアン・ソンミン氏は、ニューヨークの代表的な住宅様式であるブラウンストーンの玄関や窓を絵に取り入れて、超現実的な雰囲気を醸し出している。また「ククス(麺)山水」とも呼ばれる彼女の山水画は、インスピレーションを呼び起こす自然を、日常的な食べ物の麺に置き換えて表現している。
済州(チェジュ)に住むキム・センア(金生亜)氏も、作品に地元の風景を反映することで有名だ。彼女の絵には、済州の説話が溶け込んでいる。さらに、済州の浜辺でのビーチコーミング(漂着物を収集・観察しながらの浜辺の散策)で集めたガラスの破片を陶磁器の窯で焼いて、オブジェとして利用している。「美しい済州が、今では環境汚染によって傷ついている。海辺でガラスの破片を拾うという小さな実践が、意味ある変化につながる」というメッセージを作品に込めている。
『一面如旧』 クァク・スヨン(郭洙淵)、2010 壮紙(韓紙の一種)に彩色、162×131㎝
『シュピールラウムNo.5』チェ・ソウォン、2020 キャンバスにミクストメディア、91×116.8㎝
新しい試み
民画のデザインを利用した、壁紙のような特定パターンの繰り返し。キャラクターの登場……。そうした実験的な取り組みは、見る者に新鮮な衝撃を与えて好奇心を刺激する。ドクロをかたどったイ・ジウン(李智恩)氏の『花の道』は、ゲシュタルト・シフト(図と地の反転)を用いたもので、素材への深い洞察力と優れた感覚が見て取れる。彼女は「ふつうドクロは、死と関連して否定的に感じられるが、美しく生きたのならドクロさえも美しいのではないかと考えて描いた」と説明している。
絵の一部を抽出して大きく拡大する方法も、現代の民画の特徴だ。民画教室出身作家のユン・インス(尹仁寿)氏は「冊架図」で花瓶だけをクローズアップするように大きく描いている。数多くの器物の一つに過ぎない花瓶が、画面の主人公になった瞬間、従来の冊架図にはなかった花瓶本来の色彩感と造形美が際立ち、斬新な雰囲気が生まれる。民画教室で何度も習作を重ねた下積み時代の経験から、教え子には常に「昔のものを正しく身に着けてこそ、創作に成功する」と話している。
また最近では、民画の作家が自ら絵の主人公にもなる。民画の中のキャラクターが、一種のペルソナ(人格)になるわけだ。あるいは、サン・テグジュペリの『星の王子さま』のようによく知られたキャラクターは、見る者の童心に訴えかけ、作品を受け入れやすくする。クァク・スヨン(郭洙淵)氏は、人の姿を模したペットシリーズで有名だ。冊架図も十長生図も、ウィットに富んだ犬や猫が登場して笑いを誘う。
既存の伝統的な民画の形式だけでは、現代の感性と価値観を反映するのは難しかった。
そのため、従来の様式を解体して、新しいスタイルに再構成する作家が増えている。
伝統を超えて
最近の民画の画壇では多くの作家が、韓紙に伝統的な顔料という公式にとらわれず、多彩な材料を利用している。以前と違って材料の選択の幅が広がり、取捨選択する中で自分だけの造形言語を構築できるからだ。多くの作家が「グローバル化の時代に、東洋と西洋の文化圏で材料を分けて考えるのは無意味だ」と口をそろえる。
現代的な感性を吹き込んだ作品も目にする。キャンバスにアクリル絵の具、クレパス、色鉛筆の使用。織物や様々な模様の壁紙など身の回りにある材料のコラージュ。さらに平面から脱して、インスタレーションやメディアアートといった多様な方法で作品を見せる作家もいる。イ・ドナ(李暾雅)氏は、民画の伝統的なデザインを解体し、六面体や四角形、額縁といった幾何学的な図形で視覚化した絵を描いてきた。その後2015年からは、映像、立体に見えるレンチキュラー(lenticular)、建物の壁に映し出すメディアファサード(mediafacade)などのメディア技術を絵画に適用している。
西洋画や東洋画の専攻者や現代美術の作家も、民画の要素を好んで取り入れるなど、民画の大衆化が大きく進展している。
ファッションブランド「ヘイル(HEILL)」のデザイナーのヤン・ヘイル氏が、民画の扇子をモチーフにしたドレス。2019年9月、パリ・ファッションウィークにおいてホテル「ル・ブリストル・パリ」で発表された。
『Peony Pot Macaron 02』 アン・ソンミン、2015 デザートブーケ・シリーズ、紙に墨彩 70×50㎝
グローカリズム
大衆的な民画への関心は、画壇を超えてビューティー、ファッション、リビング産業へと広がっている。民画は本来、家の中や生活用品を飾るなど実用的な目的で使われ、装飾性と実用性に優れている。さらに、韓国ならではの美感が溶け込んでいるため、差別化されたブランディングに効果的だ。
最も積極的に民画への関心を示しているのは、ビューティーブランドの「ソルファス(雪花秀)」だ。同ブランドは、有名作家とコラボレーションした化粧品のパッケージを以前から使用してきた。2019年には、伝統模様を現代的に再解釈した企画展も開催している。その展示は、現代の作家が「胡蝶図」や「花鳥翎毛図」の伝統的な模様をインテリア、家具、ファッションなど多彩な分野の製品に取り入れて注目を集めた。オートクチュールブランドの「ヘイル(HEILL)」は2020年、パリで開かれた春・夏ファッションショーで、民画の伝統的な扇子をモチーフにしてコレクションを発表した。デザイナーのヤン・ヘイル氏は、ファッションショーの前に「韓国に民画という美しい資源があることは感動的だ」と述べている。ムン・ジェイン(文在寅)大統領の夫人キム・ジョンスク(金正淑)氏は、2017年の大統領就任式でヤン・ヘイル氏がデザインした服を着用している。
世界的なブランドが、素早く民画を取り入れている。これは民画が最も韓国的であり、世界に通じる美しさでもあることを表している。民画の吉祥と願望というメッセージは、国籍や人種の境界を超えて、誰の心にも届くはずだ。まさにそうした点が近年、民画が注目されている理由だろう。たゆみない挑戦と実験を経て、民画がいつか新しい韓流を巻き起こす「K-art」になることを期待したい。